🍁 「読書の秋 × 学びの秋 — 心に残る一冊を通じて思考力を育てよう」

秋の風が染み入る季節、外を歩くと金木犀の香りにふと立ち止まりたくなる。そんな時、本をひらけば、知らない世界や考えたことのない問いがそっと顔を出す。読書の秋にこそ味わいたい、二冊を紹介したいと思う。

　まずは『星の王子さま』（サン＝テグジュペリ著）。この物語は、砂漠に不時着した「ぼく」が、小さな星からやってきた王子さまと出会うところから始まる。王子さまは自分の星で育てた一輪のバラの話や、いくつもの星を旅した経験を語る。その語り口には “見えないものを大切にする” という主題が漂い、読み返すごとに心に深く残る一文が変わる。たとえばキツネとの出会いのくだり。「本当に大切なものは、目に見えない」という言葉は、忙しい日々に追われる生徒たちにも、静かな問いを投げかけてくれる。

　一方、私が個人的に強く心惹かれたのが 『ゼロからトースターを作ってみた結果』（トーマス・トウェイツ著）だ。著者は、ありふれた電気トースターを、材料を原石から掘り出し、部品を自作して組み立てる、という途方もない挑戦に取り組む。鉄鉱石を得るところから始め、銅線を引き、プラスチック問題に直面しつつも、最終的には「トースターらしきもの」を完成させようとする。

　この本の魅力は、「当たり前だと思っているモノ」がどんな工程・歴史・技術の集合体かを見せてくれる点だ。たとえばプラスチックを原料から合成しようとする過程で、じゃがいものデンプンを使ってみたり、素材入手に行き詰まったり、工夫を凝らしたり。挑戦と挫折の積み重ねがリアルに綴られている。

　この二冊は、いち見方向性では異なるけれど、秋の読書にぴったりな“問い”をくれる。『星の王子さま』は心の豊かさや「大切なものとは何か」を静かに問う。一方『ゼロからトースターを作ってみた結果』は、モノの裏にある構造や技術、そして挑戦する精神を示してくれる。

　学びを志す生徒たちには、物語を味わう感性と、論理的に世界を解体して再構築する思考力、この両輪を育んでほしい。秋の夜長、こんな読書時間を過ごしてみてはどうだろうか。ページをめくるたび、思考の扉がひとつずつ開いていく予感がする。

　この秋、あなたにとっての一冊に、ぜひこの二冊を候補に加えてみてほしい。心と頭を響き合わせる時間を、読書とともに。 🍁